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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)1559号 判決

本籍

朝鮮慶尚北道永川郡大昌面吾吉洞五八七番地

住居

青森県北津軽郡金木町浦町

土木業

金田こと

金武岩

当三三年

右に対する食糧緊急措置令違反被告事件について昭和二五年七月八日東京高等裁判所の言渡した判決に対し被告人の原審弁護人岡崎一夫から上告の申立があつたので当裁判所は刑訴施行法二条に従い次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人岡崎一夫の上告趣意第一点について。

しかし、所論に摘示する原判示事実の認定は原判決挙示の各証拠に照して優にこれを肯認することができ、その間反経験則等の違法は存しないから、原判決には所論のような証拠によらずして事実を認定したとか審理不尽とかの違法はない。所論は原審公判廷における被告人の供述中原判決の証拠に採用しない部分及び同じく証拠に採用しない証人柳太郎の証言を引用して原判示事実の認定を非難するものにすぎないから上告適法の理由とならぬ。

同第二点について。

しかし、法令の不知が犯意の成立を阻却しないことはいうまでもないところであるし、しかも、被告人が本件犯行当時判示の所為が違法であることを知つていたことは原審公廷における所論引用の裁判長の「幽霊人員を採つて配給を受けるということは悪いと言う事は判つていたね」の問に対し被告人の「はい承知して居りました」の供述に照してたやすく容認しえられるところであつて、右供述を本件が問題となつてからの判断であるとする所論は独自の見解に過ぎないものといわなければならない。なお所論期待できないとの主張は犯罪の情状に関し、毫も犯罪の成立に関係のないものであることその主張自体で明白であつて、原審でも主張しなかつたのであるから原判決がこれにつき審理も判断もしないのは当然であつて論旨は結局原判決の事実誤認を非難するに帰し上告適法の理由とならぬ。

よつて旧刑訴四四六条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

検察官 松本武裕関与

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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